豊泉

THE HIROSAKI UNIVERSITY LIBRARY BULLETIN
弘前大学附属図書館報  Print ISSN 0919-8563

No.12 1998.1 Page 1



地械・大学・図書館

生涯学習教育研究センター長  佐 藤 三 三

T 研究室図書館
 「地震が来た時は,どうするんですか?」研究室を訪れた学生が,唐突に,そして申し訳なさそうに,私に話しかけてきた。すぐには質問の意味を理解することが出来なかったが,書架に納まりきらず,辺り一面雑然とうず高く積まれている本の山に不安を覚えてのことらしいと思い当たった。先刻も,ちょっとした拍子に本の山が崩れ落ちて,痛い思いをしたばかりであったからである。
 「地震が来た時は,とうするんですか?」それは私への気遭いであると同時に,学生白身の不安でもあったように思う。そして,私の研究室を訪れた多くの人々が,そんな不安を抱いていたに違いない。
 「何とかしなければ……」。夏休み,エプロンを用意して,1週間,朝から晩まで,ただひたすらに書架の整理に打ち込んだ。お陰様で,今では研究室を訪れる方々からお褒めの言葉をいただくまでになった。
 汗まみれの作業を通して気づいたことがある。私の研究室にも膨大な図書や資料が所蔵されている,ということである。図書や資料は,図書館のように一定の基準で整理されて書架に並んでいるわけではない。それぞれの本が勝手に居場所を決めて,勝手に移動している。私が赴任する以前からある図書や資料もあれば,一度も中を見開いたことのない本や資料もある。にもかかわらず,大変不思議なことに,人から本の貸借を求められたならば,私は即座に,どこにどんな本があって,何がないか,を判断することが出来る・・・・・・と言えたのは,少し前までのことである。

U 大学博物館
 「弘前」大学のような例外はあるが,およそ「県名を冠した」いわゆる地方国立大学の位置づけが,大きく変わろうとしている。弘前大学を例にとっていえば,これまで,青森県という地域に奉仕する大学であると意識することは少なかったように思う。むしろ学問という普遍性に即して地域に縛られることなく,日本をそして世界を視野に捉えて思考し飛翔してきたように思う。
 昨年4月,生涯学習審議会は『地域における生涯学習機会の充実方策について』を,文部大臣に答申した。そこでは本文の筆頭項目に「社会に開かれた高等教育機関」を掲げ,大学を「地域の生涯学習機関の一つ」に位置づけた。昨年5月に開設された弘前大学生涯学習教育研究センターの設置主旨もそこにある。また同一の観点から答申は,大学の「豊富な知的資産」をもって「ユニバーシティ・ミュージアム=大学博物館」を整備し,地域の人々の多様な学習要求と博物館の振興に頁献すべきことを提言している。

V 公共図書館と大学図書館
 図書館にも,学校図書館,大学図書館,国立国会図書館,そして図書館法に基づき社会教育施設の一つとして設置された公共図書館など,いろいろな種類の図書館がある。なかでも県立図書館や市町村立図書館に代表される公共図書館に,図書館の思想が体現されている。歴史に名を留めることもない無名の無数の民こそが,歴史と文化と政治の創造者であり主体者であることの思想的・政治的確認の産物が,公共図書館であったからである。公共図書館が「地域の知」を代表するものとすれば,大学図書館は「大学の知」の象徴である。この二つの知が固く鋭く切り結ぶとき,そこにまた新たな知の地平が切り開かれていくように思う。その努力はすでに弘前大学附属図書館においても始まっているが,生涯学習教育研究センターも共に力を尽くす機会があればよいと願っている。

さとう・さんぞう 教育学部教授)



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