豊泉
THE HIROSAKI UNIVERSITY LIBRARY BULLETIN
弘前大学附属図書館報 Print ISSN
0919-8563
No.12 1998.1 Page 2
品 川 信 良
子供の頃から,私が非常にお世話になり,一番感謝してきたものの一つに図書館がある。小学5,6年生のときは,秋田県南の小さな村に住んでいたため,秋田県立図書館からの,今でいう「巡回移動図書館」に,随分お世話になった。また,(旧制度の)中学校に入ってからは,町の図書館と司書の方々のお世話になった。今でもその方々のお名前などを,よく覚えている。
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高校や大学でも,図書館と司書の方々には非常にお世話になってきたが,特に印象に残っているのは,昭和16年12月,太平洋戦争が始まった時のことである。当時私は,旧制高校の寮の図書委員をやっていたが,然るべき筋のからの指示ということで,「危険な思想の図書」の整理をさせられたことがある。いわゆる「赤」(思想)に関するものは,既に大方整理されていたが,意外にまだ残っていたのが,シベリア出兵に関するものであった。整理かたがた,その何冊かを私は斜めに読み,学校では教えていない意外な事実のようなものがいろいろあることに,あらためて驚いた。戦争が終わってみたら,そのほとんどは,歴史的事実であった。
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戦後,仙台にはいち早く,CIEアメリカ図書館(Civil
Information & Education
Library)ができた。そこには,東北大学の図書館にもない,アメリカの最新の学術書がぎっしり並んでいた。あれを見ただけでも,日本は軍事的にだけ負けたのではないことが直ぐ分かった。又,私が何かをさがしていると,司書のアメリカ人女性が静かに近寄ってきて
May I help you?
と小声で囁くのには,「これが公僕の在り方。これがサービス精神というものか」と感心した。
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弘前にきてからの私は,弘前大学図書(本)館,同医学部分館,弘前市立図書館などのお世話に,随分なってきた。これらの図書館には,(分館以外は)戦災に会わなかったせいもあり,私の読みたい図書が,かなり良く揃っている。私事にわたるが,大学を辞めてからも私が弘前を離れなかった理由の一つは,これらの図書館とそこに働く方々から,お別れしたくなかったからである。
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ところで図書館も生きものであり,その使命や在り方も,どんどん変わってゆく。したがって,いろいろ要求をしだしたらキリはないが,ただ二つだけ,お願いを言わせていただくならば,「受動喫煙」に対する配慮を,図書館はもう少しなされてはいかがなものであろうか。全館を禁煙にしていただければ申し分ないが,諸般の事情から,それが困難であるのなら,せめて仕切られた喫煙室を窓際に設け,そこには換気扇をつけていただきたい。図書館の利用者もさることながら,常時あそこに働いて居られる方々の御健康が心配でならない。
それからもう一つ。「節電」にも,もう少し配慮されてはどうであろうか。これは図書館に限ったことではない。日本の官公庁,大学,国公立病院,JRなどは,節電には.余りにも無神経すぎる。
(しながわ・しんりょう 弘前大学名誉教授)