豊泉

THE HIROSAKI UNIVERSITY LIBRARY BULLETIN
弘前大学附属図書館報  Print ISSN 0919-8563

No.13 1998.3 Page 2



図書館と私

奥 野 浩 子

 大学時代,昼休みやあき時間は大学の図書館で過ごした。真面目な学生だったからではなく,近くに喫茶店も遊ぶところもないから「仕方なく」行ったのだ。最初びっくりしたのは,あいている席を探すのも大変なほど学生がいるのに,新聞をめくる音と本のページをめくる音とペンを走らせる音しか聞こえなかったこと。ただ暇つぶしに行っただけの私は,友人とおしゃべりできない所と悟って,図書館の中を探索することから始めた。まず,開架式の書架に入り本がどのように並んでいるかを観察した。分野ごとに和書と洋書が著者のアルファベット順に並んでいた。次にカードの検索の方法を知った。一冊につき,書名カードと著者カード二枚があって,書名か著者がわかれば本を探し当てることができることを知った。
 こんな簡単な仕組みがわかると,今度は目的をもって図書館に行くようになった。とっている授業に関係のある本を探し当てて読んだ。授業でとりあげられたことに関係のある本が必ずあるという,当たり前かもしれないことに興奮を覚えた。
 大学二年の時,英語でリサーチペーパーを書くことになった。自由英作文であっても論文形式で書くことを学ぶという授業だった。テーマは専攻分野に閑係のない,できれば日本的なものをというアメリカ人の先生と相談した結果,私は江戸時代の遊女の生活を調べてペーパーにすることになった。テーマは決まったものの,これに関しては大学の図書館に文献がなかった。国立国会図書館には何でもあると開いて,友人と行ってみた。情報は確かだった。借り出しができなかったので,何度も通ってノートをとった。わからないことを調べる楽しさ,アメリカ人の先生に分かってもらえる英語に表す苦労など,現在の私の原点ともいえる体験だった。
 およそすべての事柄について文献があるということに先人の偉大さを知り,自分がいかに知らないことが多いかを素直に認められ,知的好奇心を刺激される所が図書館だと思う。ちなみに,私のリサーチペーパーのタイトルは The Painful World で,知ることは楽しかったが,知った内容はつらいものだった。

おくの・こうこ 人文学部 助教授)



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