豊泉  THE HIROSAKI UNIVERSITY LIBRARY BULLETIN  弘前大学附属図書館報  Print ISSN 0919-8563
No.18 2000.7 Page 2


誤って予約されたホテルは大古書市の会場であった

医学部教授 松 木 明 知  

 去る3月中旬にロンドンを訪れた。用事のあるラッセルスクエアに近いホテルの予約を旅行業者に頼んだ。昨年10月にロンドンを訪れた時と同じ業者の同じ担当の人にホテルの予約を依頼したので,私としては同じホテルに予約されたと思い込んだ。担当者からは希望通り,ラッセルスクエアに近いホテルを予約しましたと早々に電話で連絡があったが,航空券と宿泊の予約券を受け取ったのは成田空港を出発する前日の午後であった。
 思い込みとは恐ろしいもので,受け取った旅程表に目を通したが,ホテル名がImPerial Hotelでなくて,Hotel Russelになっていたのを見落とし,私はこれを住所と,勘違いした。従ってヒースロー空港から地下鉄でImPerial Hotelに直行し,受付の人にここはImPerial HotelでHotel Russelではありませんと言われるまで気が付かなかった。家内にも私のウッカリを今でも笑われている。
 さてImPerial Hotelから100mも離れていない同じRussel Squareに面しているHotel Russelの玄開に入るや,私は目を見張った。
 1階の2つの大ホールが古書市の会場であった。チェックインを早々に終えるや,家内を部屋に残して,早速会場に下りた。ロンドンや近郊の約100店が出品しており,月1回開催されるロンドンでは最大の古書市であることが分かった。閉店の時間も1時間半後に迫っていたので各店をざっと廻った。
 出品されていた書籍は主して人文系のものが多かった。私は古書店では大抵2回チェックすることにしているが,2回目の20店目で長年探し求めていた一本を見い出した。Bailey's Ethymogical English Dictionaryである。Londonで1725年に出版された第3版で,小さな虫食いがあるものの,概して美本である。早速購入した。140ポンドである。この本は私の専門とする麻酔科学An(a)esthesiologyの語幹の麻酔Anaesthesiaという言葉を最初に収載した辞書である。昨年英国のRushmanらの“麻酔の歴史”を翻訳した際もこの辞書の名が見い出されるので知っていたが,実物を手にするのは初めてである。
 医学界では現在evidence−based medicineが喧伝されているが,この意味から私は可能な限り実物を見,もし出来れば購入することにしている。
 ホテルを間違えたお陰で,永年探し求めていた本に出会うことが出来た。他人に迷惑をかけたりしたり,傷つけたりするのでなければ,間違いもまたそれなりに楽しいものである。

(まつき・あきとも 麻酔学講座)


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