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豊泉  THE HIROSAKI UNIVERSITY LIBRARY BULLETIN  弘前大学附属図書館報  Print ISSN 0919-8563

図書館の電子化について思うこと

総合情報処理センター助教授 丹 波 澄 雄  

 「何を持って電子化と言うのか?」と言う疑問がある。事務組織が電子化されているだけでは不足である。図書館のサービスが電子化されている必要がある。さらに,図書館の蔵書(ここに全ての情報が含まれている)の内容が電子化されていなければならない。電子化をこのように考えることもできる。電子化の前に図書館の成すべき事を考えてみる。利用者を取巻く環境は確かに以前とは変わってきているが,図書館の基本的な役割は変わってはいない。それは,煎詰めれば情報を検索し入手することである。大学の図書館であれば,特に大学内の教育・研究のためと範囲が絞られてくるが,情報の検索と取得が中心であることに変わりはない。
 検索の手段としてアナログとディジタル方式がある。前者は従来の日本十進分類法に従って図書館の開架を探索して歩く方法であり,また分類整理されている書籍カードをめくるのも同様である。後者は書籍カード上に記載されている情報を電子化したデータに対して検索を行なう方法であり,計算機と端末,検索ソフトウェアが必要になる。書籍カードの情報が検索対象であるかぎり,分類法に従ったインデックスやキーワードを用いる検索しかできないが,紙の媒体ではほとんど不可能であった種類の検索,例えば,最も発行年の古い書籍,書名の最後の文字が「ん」である書籍など,が可能であり便利さは増大している。最もこれも検索ソフトウェアの出来次第と言った側面は大きいが。便利さを追及していくと,「本文の内容で検索を行ないたい」と言う要求も現れてくる。全文検索,内容検索と呼ばれるものである。このためには,当然のことながら本文全体がディジタル化されたテキストになっていなければならない。書籍が全てディジタル化されたなら,今まで空想の域を出なかった使い方も可能になろう。
 電子化することによってバラ色の未来が開けると考えることは楽しいが,どのようにしてそのような未来に近づいていくべきかを考えるとき,絶望的になる。アナログ情報をディジタル情報に変換するためには現状では非常に高いコストが要求される。さらにデータ変換に附随する変換誤差はゼロにはできない。この他に,利用形態によっては著作権も大きな問題になろう。電子化の流れは止められないものであろうが,進むべき道筋が明確になっているとも思えない。
 図書館が図書館としての役割を果たしてゆくためには,今何を電子化し,何を電子化しないのかを検討し,利用形態,利用環境は如何にあるべきかを利用者と図書館が共同して考えて行くべきであろう。電子化は技術的側面からの主導ではなく,内容面からの主導によってなされるべきであり,そのための支援を総合情報処理センターが行なえるような体制を整えてゆくべきと考えている。 

(たんば・すみお 画像情報処理)


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