Top > 学内出版物 > 図書館報「豊泉」 > No.20(2001.3) > p.3-4


<投 稿> 本学教官の出版物コーナーの発足を喜ぶ

弘前大学名誉教授  品 川 信 良

 昨年11月28日の夕方,散歩がてらに弘前大学附属図書館に行ったさい,ある意外なものを私は発見した。それは2階の一隅に「本学教官著作物コーナー」なる見なれぬ書棚を発見したからである。そこには,本学教官による最新の出版物10数冊が陳列されていた。これを見て私は,急に今から30年以上も前のあることを思いだした。それは1964年の11月,私が初めてドイツの大学都市,ゲッチンゲンを訪ねたときのことである。ゲッチンゲン大学の有名なハインリッヒ・マルチウス教授をお宅に訪問したあと,同市内のふとある書店の店頭で,意外な光景に遭遇した。それは,道路に面した一番目立つところが,「この町の大学の先生方が出版された本」というコーナーになっていたことである。さしずめ日本でなら,ベストセラーとその広告が陳列されているところにである。
 そこには勿論,マルチウス教授の著書などがぎっしり展示されていた。いかにもそれは,「わがゲッチンゲンは人口10数万の地方小都市であるが,立派な大学があり,こんな立派な本を書かれた先生方がおられる」と,学生や市民たちに語りかけているみたいであった。確か,核物理のオッペンハイマー教授関係の本もあったと記憶する。(その後,同じような光景を,ハンガリーのブダペストやルーマニアのブカレストでも,私は見かけたことがある。)
 あの時の感動を,帰国後私は早速,色々な方にお話ししてみた。そして弘前市内の有名書店のほかに,弘前大学の図書館関係者にも,そういうコーナーを設けてはどうかと働きかけてみた。幸い,今泉本店(昨年倒産)では,私の提案とは少し変わった形でではあったが,私の提案は採用された。
 それが,今泉本店の「郷土出版物コーナー」であった。いまは「紀伊國屋書店」にもみられる。しかし,なぜか弘前大学では,私の提案は採用されなかった。「自分の著書を展示されたくての提案ではないか」などという声があったやにも聞いていた。  以来私はこの件を,ここ30年以上もすっかり忘れかけていたが,去る11月28日はからずも,かっての私の提案が,意外なときに,意外なところで実現していたことを知ったのである。
 勿論これは,どなたかが最近,同じ事を提案されたからに違いないが,それでも私は大変嬉しかった。これが一つの契機になって,弘前大学の学生や教官が,一層励んでくれたらと祈ってやまない。
 そう言えば,数か月前から弘前大学の図書館は,全館「禁煙」になった。
 何度も何度もこのことを提案してきた私としては,本当に嬉しかった。図書館長さんからは,わざわざ「先日の図書館協議会に全館禁煙にするということを報告し,了解を得た」と嬉しいお電話を頂いたりもした。おかげ様で,図書館に行っても,図書館から帰っても,それまでのように咳こんだり,くしゃみをしたりすることも無くなった。「年月はかかるが,私たちの提案は,いつか実現することもあるものだ。あまり世の中や政治などに失望ばかりしていないで,もう少し生きてみよう」,「望みなきにあらず」,「気づいたこと,正しいと思うことは,これからも随時,勇気を出して発言しながら生きて行こう」などと,あらためて心に誓った次第である。もう一度,関係・実現者の皆様に心から敬意を表する次第である。

(しながわ・しんりょう)


弘前大学附属図書館 Hirosaki University Library