弘前大学附属図書館報 豊泉 No.10 Page 3

豊泉

THE HIROSAKI UNIVERSITY LIBRARY BULLETIN
弘前大学附属図書館報  Print ISSN 0919-8563

No.10 1996.12 Page 3



弘大図書館を情報検索の電脳図書館に

鶴 見  實

 TVのコマーシャルで「田舎に住みながらインターネットを経由して大学の図書館の資料を読み,Dr論文を書いた」というのがあった。これを御存知の方は多いことだろう。このCMは図書館に対して非常に多くのことを示唆していると思う。近くに大きな図書館があったり交通の便利な地ならいざ知らず,遠隔地にある地方の文化拠点にとってインターネットはまさに地方と首都そして世界との距離の差をなくすものと言えよう。
 情報時代の図書館は何を要求されているのか。人間の歴史は個人の自由度の拡大だとかつて歴史の授業で教わった。図書館に対する,より開放的で,より広いニーズに答えるべき情報源としての要求は強まる一方であろう。動物園や植物園が珍しい生物を展示する場所から,貴重な生物を保存保護し生物研究の資料を提供して社会を啓蒙する情報センターになりつつあるのと同様に,図書館は貴重な資料を保存開示するのと同時に,より多くの多様な学術情報をより広く提供する情報中継センターに変貌する宿命を持っていると思う。
 現在全国の大学や研究所で図書の収納スペ−スのなさと新しい情報の必要性からCD− ROM化の動きがあると聞く。ここに例として,私が化学分野についていくつか聞いた話を紹介する。筑波にある国立環境研究所では化学情報の源である Chemical Abstracts の購入を中止してしまい,その代わりにCD−ROM化されたCurrent Contentsに切り替えた。これは各種雑誌の目次と各論文の Abstracts を収録してあるものでコンピュータ上で自分の関心のあるキーワードを入力すればそれに適合する論文を自分のコンピュータがはじき出してくれるものである。この冊子版はすでに本学でもいくつかの部門で購読されており,大学として共通性の高い雑誌と言えよう。これはつい最近主要な大学で各研究室のインターネット端末から利用できるようになってきており,それを購入した大学の職員や学生は自分の研究室の端末から利用している。いままで冊子でCurrent Contentsを個々に購入していた研究者は経費とスペースをうかせることができたのである。そして現在,弘前大学のインタ−ネット上から図書館の情報検索としてCurrent Contents:Life Sciences&Clinical Medicineが利用出来る。これはぜひ早急に試していただきたい。そして大学の全分野をカバーしてほしいものである。これを試してみたうちの研究室の学生は,「これは絶対にいい,自分の分野も揃えてほしい。一日も早く導入するように頼んでくださいよ。」と叫んだ。修士の学生にとっては必需品であろう。
 これに似たシステムとして東大の情報センターのTool-IRによる CAS(Chemical Abstracts Service)があった。現在はインターネット上でCASTORとして利用できるようだ。かつて私はTool-IRを愛用したが,これは検索利用時間に応じて千円〜数千円の利用料金を払わねばならない。Current Contentsと比べてどちらがよいかを直接比較してみたいものだ。経費を支払えば,他にもJICSTなどいくつかの方法があるが,自分の研究室のコンピュータで検索する手軽さは私のような不精ものには代え難いものがある。
 インターネット上で,日本化学会では英文誌の目次を公開している。EIsevier社では出版している科学雑誌のコンテンツを E−mailで無料提供している。しかも本編の雑誌が出版される前にである。これらの傾向はますます増えることだろう。利用者が増えれば投稿論文数や,もしかしたら購入団体の数が増えるから出版社にとっても悪くないのだ。東工大や東北大などいくつかの大学ではOPACというシステムをネット上で公開しており, 大学で所蔵しているすべての図書や雑誌の目録をサーチコマンドで検索することが出来る。実際にやってみると自分の本が一挙に増えたような錯覚をおぼえる。
 情報ハイウェーの波にうまく乗って静かな自然環境を楽しみつつ,超近代的な研究生活を送る。これが大きな自由度を求める研究者の望みだろう。これによって図書館のイメージや利用価値が増すのは確実である。弘大の図書館を情報中継センターとしての電脳図書館にすることは切なる願いである。

(つるみ・まこと 理学部助教授)


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