no.3 (Aug. 31, 2000)

 第17回日本学術会議情報学連絡委員会,学術文献情報専門委員会の審議結果が報告書として作成され,総理府日本学術会議事務局から送られて来ましたのでご参考までにお知らせします。なお,日本学術会議ではPDF版を公開しています。


情報学研究連絡委員会 学術文献情報専門委員会報告

電子的学術定期出版物の収集体制の確立に関する緊急の提言

平成12年6月26日
日本学術会議
情報学研究連絡委員会
学術文献情報専門委員会


要 旨

  1. 報告書の名称
     第17期日本学術会議 情報学研究連絡委員会学術文献情報専門委員会報告「電子的学術定期出版物の収集体制の確立に関する緊急の提言」
  2. 報告書の内容
    (1)作成の背景
     1990年代の商業出版社による国際的学術雑誌の電子雑誌への転換に伴う,既存印刷体の単価を含めての価格の急騰は著しく,円高差益や若干の予算増では対応出来ず,学術情報センター(現国立情報学研究所)のデータべ−スを利用した調査によると,各大学図書館をはじめ全国共同利用機関である外国雑誌センターも体系的収集が困難な事態になって来ている。これは,日本の学術研究の根幹をゆるがす事態であり,本専門委員会はこの検討のため小委員会を設置し,慎重な検討と調査を行つてきた。
    (2)現状及び問題点  
     これまで,外国雑誌センターを中核として,重複購入を俳除した学術雑誌購読誌数は着実に増加してきた。しかし,1990年をピークとして,学術雑誌の重複なしの全国総購読誌数は急速に減少している。これは,購入単位価格の高騰だけでなく,日本に対してだけ,他国と異なる購入条件を要求する有力海外出版社も現れ,日本に対する不公正貿易とでも呼ぷべき状況となっている。
     欧米緒国は,大学等研究機関を超えた共同購入やナショナルサイトライセンス契約等を行っている。これに対して,日本は,全国的な対応がとれず,個別契約の状況である。
    (3)改善策,提言  
    このような状況に対応するために,次の2点を提言する.
    1)国立国会図書館,大学図書館国立情報学研究所をはじめ各種全国共同利用センターやその他のデータベース提供機関は,この事態の緊急性を認識し,相互の協力のもとに,文部省,科学技術庁,その他の国立研究機関・試験機関等の支援を得て,直ちに必要な予算および組織体制に関する措置を行うこと。
    2)日本に対する各国の商業出版社の差別価格的要求に対しては,貿易の国際的平等化を図るべく関係省庁は適切な対応措置を実施すること。

  1. 電子的学術定期出版物
     近年の電子出版技術の進歩,ネットワーク環境の急速な展開によって,学術情報資料の電子化オンライン提供の動きが急速に進展している。特に,1998年から2000年にかけて,国際的な主要学協会,大手学術雑誌出版社が積極的に関与するようになり,急速に多くの学術定期出版物,なかでも学術雑誌が電子的年形態でも提供され始めている。これまで冊子体の学術雑誌等の場合には同一組繊の内でも読者数が多い場合には複数購読するということが見られた。しかし,購読料の値上げに依って,複数購読は急速に減少してきている。遠隔地に建物が分散している場合でも,購読の統合は避けられない動きであった。これに対して,電子媒体の場合は,適切な購読契約が為されるならば,複数購読の必要もなくなることは明らかである。したがって,従来の印刷体による学術文献資料の収集の必要性を前提としつつも,情報化社会に本格的に対応した新しい媒体での刊行形態に即した形でその収集体制を整備・確立することが緊急を要する課題となっている。
  2. 各大学等の対応
     このような学術情報の提供状況の動向を認識して,各大学や研究所等の図書館では,先端的研究の水準を維持し,研究者の需要に応えるために,館内ネットワーク整備,CD−ROMデータべ−ス購入,自組織の刊行物に付いてはオンラインジャーナル試行などの自助努力を重ね,厳しい財政状況,人員状況の下においても事務的,技術的な体制を整えようとしている。また,各研究者個人においても,研究費のかなりの部分を資料購入に充てるなどの方策を講じている。
  3. 価格の高騰
     問題は,これらの資料,特に商業出版社の刊行する学術碓誌が,電子ジャーナルを組み合わせて,従来にも増して高額な価格で,しかも国別に別個の条件で提供される傾向もあり,個々の科学研究費等による研究プロジェクトや,大学の予算規模を越える規模となっている。これにより,わが国全体として購読している異なりタイトル数は急激に減少している。これは個別大学等の図書館・研究室の購読数減少に止まらず,これらの組織が本来収集する中核的雑誌以外の比較的読者層の薄い特殊雑誌を収集する外国雑誌センター等が,購読を止めた組織に対応するため,準中核雑誌まで収集する必要に迫られ,本来収集すべき特殊な雑誌の購読を諦めざるを得なくなるといった日本の学術雑誌収集体制の根幹を脅かす状況になってきている。しかも,各学部,大学等で個別に電子ジャーナルと合せて契約,購入することで重複契約,重複購入の無駄も生じていると考えられる。
  4. 海外における対応
     これを避けるためには,電子ジャーナルに関しては共同契約,共同購入等を実現することによって,有利な契約条件を得ることが望ましい。既に,北アメリカ,ヨーロッパ.オーストラリア,韓国等においては,この世界的状況を認識して,学術団体,図書館団体等が協力して,国家的,地域的規模で学術資料収集利用基盤を確立する体制を構築しつつある。
  5. わが国に対応
     わが国でも・学術文献資料,特に学術雑誌が,電子化されて提供されるという事態に対応す る施策を国として実施する必要がある。これらの資料の利用者が,大学研究者に留まらない現状 を考慮に入れるならば,例えば,大学等研究機関を越えた共同購入,ナショナルサイトライセンス契約の締結などを容易に,かつ安定的に可能とするような予算的,制度的基盤(新規予算枠の確保,情報関連研究機関の業務としての位置付け,意見調整機構の設置等)の整備を積極的に推進しなければならない。また,研究資料の共同購入のための外国雑誌センターや各種全国共同利用センターにおいても,集中購入による特色有るコレクション構築という本来の設立趣旨を活かしつつ,その目的に即応して21世紀の学術的出席の電子化とそれによる研究環境の変化に対応す ることが重要である。
  6. 研究者としての対応
     これらの状況は,わが国における学術振興の観点から,研究者の側でも早急に解決すべき問題を含んでいることも事実である。特に,図書や雑誌等の学術出版物の刊行方法を,商業出版者依存から,いままで以上に学協会等により独立に刊行する可能性を検討することなどは,研究者自身 が関与できる事項であることを認識しなければならない。研究者はこれらの状況を自覚し,主体的 に対応すべく活動を開始する必要がある。例えば,雑誌出版にかかるコストを協力して解明し,その中で研究者と出版者がそれぞれ担うべき役割を認織しあうこと,21世紀の新しい学術出版の形態を検討する研究を開始すること,さらに,学術目的の資料利用における著作権の保護と制限の原則を提案することなどが必要となるであろう。
  7. 国としての対応の必要性
     海外学術文献資料,なかんずく学術雑誌の購入,契約については,電子媒体の購入と合せて, 日本に対してのみ差別価格的要求をする出版者に対しては,貿易の国際的平等化のための的確な対応措置を講ずるに留まらず,購入する必要の有る機関を組織化することによって協同的な購入・契約,機関の種別を越えた利用の保証を得ることも必要となろう。このためには,従来の学術文献の収集,利用の体制と方法を抜本的に見直し必要な予算的,制度的措置を講じることも検討 されるべきである。
  8. 提言
     学術文献情報専門委員会としては,これらの方策について慎重に検討を重ねてきた結果,以下 の2点を緊急に提言する。
    (1)国立国会図書館,大学図書館,国立情報学研究所をはじめ各種全国共同利用センターやその他のデータべ−ス提供機関は,この事態の緊急性を認織し.相互の協力のもとに,文部省,科学技術庁,その他の国立研究機関・試験機関等の支援を得て,直ちに必要な予算および組織体制に関する措置を行うこと。
    (2)日本に対する各国の商業出版者の差別価格的要求に対しては,貿易の国際的平等化を図るべく関係省庁は適切な対応措置を実施すること。

(資料)

日本における外国雑誌受入れ状況の変遷

 近年における日本の外国雑誌受入れ状況の急激な減少は,学術雑誌総合目録データベースにより知ることができる。このデータベースは日本のほぼすべての大学図書館及び主要な研究図書館を網羅した総合目録で,日本でどれだけの異なるタイトル(同じ雑誌を複数の図書館で買っていても1と数える。)を購入し,受け入れしているかわかる。
表1:学術雑誌総合目録データベースに基づく日本の図書館の外国雑誌受入れタイトル数

 タイトル数
 1945   11,834 
 1950 
 1955
 15,138 
 18,961
 1960
 1965
 23,495
 27,002
 1970
 1975
 30,334
 31,783
 1980
 1985
 35,718
 37,537
 1986
 1987
 1988
 1989
 1990
 1991
 1992
 1993
 37,845
 38,200
 38,477
 38,328
 37,708
 36,099
 33,787
 28,627
 1994
 1995
 1996
 26,139
 24,257
 21,034

(98年3月のデータベースに基づく数値。受入れの遅れ,調査上の遅れにより,94年以降の数値は実際より小さくなっている可能性がある)