図書館報「豊泉」TopNo.22目次次ページ arrow


北国の大学図書館の存在価値を高めよう

副学長  丹 野  正

 これが活字になるころは,秋も深まっていることでしょう。陽は日ごとに短くなり,寒さがつのり,やがて雪が降り始めます。いまごろはまだ,好天であれば授業の空き時間帯は建物の外でも居場所に困らないでしょうが,これからはそうはいきません。自宅通学の学生は何時に帰宅しても,暖かい家と食事が待っているでしょうが,大多数の学生はアパート・下宿暮らしと思います。近年はタイマー予約で点火できるストーブが普及してますが,みなさんの部屋の暖房のしくみはどんな状況ですか。
 といっても,私は暖房業者のまわし者ではありません。積雪寒冷地の大学に通う学生として,附属図書館をこれからの季節はとことん利用しよう,というのが本文の趣旨です。図書館は数年まえから,平日の夜も遅くまで開館しており,土・日曜日も開館し,一般市民にも開放されるようになりました。
 そもそも大学の附属図書館は,国立であれ私立であれ,その大学の学部・学科に関連する分野の既存の知・現在形成されつつある知を大量に集積して利用に供し,公開するという役目を担っています。だから,わが弘大も含め世界中の各大学は,自分たちの附属図書館の蔵書量や利便性などについて,かなり詳しい情報を提供しています。というのは,他の諸条件が整っていても図書館が充実していなければ,その大学またはこれから設立しようとする大学は,設置審査で認定を受けられないからです。文部科学省や政府は,それだけ大学の図書館を重要な施設と位置づけ,予算も投入しているのです。また最近は,大学間の IT ネットワークを通じて,自大学の図書館にない本や論文なども他大学の図書館から容易に入手できるようになりました。
 しかし,大学附属図書館は蔵書数の多さを誇るだけでは不充分です。多数の学生,教職員や市民が本や雑誌等を借り出して,そこで勉強できるスペースと環境が整備されている必要がある。そのため本学でも,大学全体の限られた予算のなかから,全体が協力して図書館へのパイを大きくし,上述のように図書館の利便性を拡充しているわけです。そのための人件費や照明・暖房のための光熱費は大きな金額です。みなさんの授業料の一部も,まわりまわってこれに注がれているわけです。この附属図書館を利用しない手はありません。
 大学の授業は,高校までの授業形態と違って,単位制というシステムに沿って編成されます。単位制については入学時のガイダンスで説明を受けたはずですが,もう忘れたという人も多いでしょう。単位制は日本の大学だけでなく,世界中の大学が共通してとっているシステムです。大学の授業は講義形式で行われるものや,演習・ゼミナールや,実験・実習形式のものからなりますが,それらはいずれにせよ,学生が45時間かけて学修する必要のある(つまり,その内容を修得するのに45時間の勉強を要する)内容をもって1単位と規定されています。その45時間のうち何時間を実際の授業(つまり教室での講義や演習,実験室での実験,学内や野外での実習)に配分し,残りの何時間を学生自身の予習・復習等に配分するかは,各大学の判断にまかされています。
 本学では(他大学も),多くの講義は,教室での実際の講義は,15時間で1単位としています。つまり,あとの30時間は自習とし,その双方で1単位だというわけです。また,実験や実習の多くは,30時間の授業と15時間の自習で1単位となっています。本学では前期と後期の2セメスター制をとり,前期後期をそれぞれに15週は確保するようにしています。
 そこで仮に,すべての授業を1単位の内容に区分して,それらをすべて短期集中形式で実施することにします。とすると,学生は前期の第1週の授業科目の中から1つを選択し,第2週はこれをとり,第3週はあれを選び,……ということになります。どの週もどの授業を選んでも,毎週45時間勉強することになります。いまや週休2日制ですから,月〜金の5日間で45時間,毎日平均9時間勉強することになります(これは仮定の話ではなく,単位制のもとでは現実にもそうなるのです)。あなたがある週に選択した授業が講義形式のものであれば,教室での実際の授業は月から金まで午前か午後かに3時間ずつで,毎日残りの6時間はどこかで自習せよ,となります。実験や実習の場合にはこの逆になります。こうした集中形式のカリキュラムで,前期のどの週の授業も試験をパスして計15単位,後期もすべてクリアして1年間で計30単位確得となります。医学部医学科を除けば,どの学部も4年間での卒業所要単位数は124単位か学部によってはそれ以上と定められています。ですから,夏休み期間中にも毎年少なくとも1単位以上の集中授業が行われることになります。  このような全授業短期集中形式にせよ,いま現在のような週1回ずつの授業方式にせよ単位制のもとでは各授業の時間と自習の時間の合計が毎日9時間の学習という点は変わりません。ですから,各自が編成する5日間の授業時間割上では,教室に出席する時間を除くとかなりの部分が空白,つまり自習時間ということになります。さて,毎週・毎日のその何時間かの(何時間もの)自習を,どこでやりますか。
 毎日自宅や下宿やアパートと大学の間を2回3回と往復するのは大変です。教室などの空きもあまりないし,これからは夜が長く寒くなります。雪が降り積もって大学に来るのもおっくうになり,ついサボってしまっては困ります。そこで図書館なのです。そのために図書館がある,とくに北国の大学では,というわけです。夕方になるとスチームが冷えてしまう教室や演習室とは違って,暖房完備です。
 毎日,弘大の図書館の学習室は学生でいっぱいで,なお多数の学生が入れずに困っている,という状態になれば,文部科学省はとうぜん図書館の拡張を認め,予算を投入することになるでしょう。早くその日が来てほしいですね。 

(たんの・ただし 人文学部教授)


弘前大学附属図書館 Hirosaki University Library