図書館報「豊泉」TopNo.22目次arrow 前ページ次ページ arrow


青森県史「自然編 地学」の編集を終えて

理工学部教授  田 中 和 夫

 平成8年に計画された「青森県史」の自然編地学はこの春発刊にこぎつけた。当時県史編さん委員会の自然部会長であった故齋藤和夫名誉教授(生物学)に依頼を受けて,自然編地学の取りまとめを担うことになった。
 地学がカバーする範囲は非常に広く,少数の人間では対処しきれない。結局執筆者は25人に達した。この25人の原稿の整合性,文体の統一,内容に誰が責任を持つかということになり,4人が編集委員として,全体をまとめることとなった。この編集の過程で,気付いたことを二,三述べたい。
 人間とは本来怠け者なのであろうか。筆者は何事でも締切りが近づかないと重い腰が上がらないことが多い。執筆期間は余裕を持たせ15ヶ月間とし,発刊予定日の1年半前の1999年10月10日を締切日とした。ところが,締切日までに提出された原稿は半数以下であった。
 自然編地学の発刊の反省会を兼ねた自然部会の席で,次に発行する自然編生物について今後原稿の提出が遅れた場合は,ペナルティーとして遅延の程度により原稿料を減額するというきつい提案を冗談まじりでした。当然ながら一人の賛成も得られなかった。
 原稿の遅れは,編集や校正にしわ寄せされる。校正に十分な時間が取れない。その結果誤植を見落とすことになった。
 かってある町史を読んだとき,巻頭言で町長は新発見が始めてこの町史で公表されたと自慢していた。その項を読んでみたところ,新発見でもなんでもない,ただ著者の独り善がりの説が開陳されていたに過ぎなかった。そこで県史は,研究発表の場ではないこと,自己宣伝の場ではないことを編集方針の基本の一つとし,学術的に正確を期すること,典拠を明らかにすることとした。
 学術用語の多用も目立った。文体も様々である。編集委員の4人が読み合わせをして,執筆者全員に修正個所を提示し,編集委員会として書き直し又は加筆・削除をお願いした。
 最も困ったことは,分野によって学術用語の定義が異なっている場合がある。またある分野で死語である単語が他の分野では今でも使われていることもある。一般県民を対象とする以上,難解な用語の使用は極力避けたい。そこで学術用語を使う場合にはその説明を本文中に取り込むよう努めた。
 多分野にわたって同じ項目が取り上げられていたこともある。重複を避けるためどちらかをカットせざるを得ない。出来上がった文章を没にするという申し訳ないこともした。
 自分の文章に朱を入れられるのは誰でも嫌なものである。人間とは勝手なもので,他人の文章に朱を入れていながら,いざ自分の書いた文章にコメントが付くと,反論したくなる。書き直しをお願いした人達には不愉快な思いをさせてしまった。
 結果として,原稿の2割をカットした。内容は贅肉が切り落とされスマートになった。
 編集とは難しい作業である。恨まれることはあっても決して感謝されることはない。しかし完成本を見たときには真実嬉しかった。
 自然編地学は,序章「北緯41度の自然」と「大地の風貌(地形)」,「大地をつくるもの(地質)」,「大地の生い立ち(地史)」,「四季の彩り(気象と気候)」,「潮騒の調べ(海)」,「忘れたころの天災(天変地異)」の6章から成るオールカラーの一冊である。全体として,北緯41度の自然に生きる人間と自然の関わり合いを把握できる内容になっている。
 本書は本附属図書館に備えてある。平成14年度刊行予定の自然編生物ともども,青森県人のみならず,本学に学ぶ学生諸君にぜひ読んで頂きたいと思っている。

(たなか・かずお 地球環境学科)


弘前大学附属図書館 Hirosaki University Library