図書館報「豊泉」TopNo.23目次arrow 前ページ次ページ arrow


先輩から新入生のみなさんへ 私の研究分野と文献収集

大学院農学研究科修士課程1年  田 中 和 明

 明日から一年間図書館業務を停止します,なんて突然言われたとしたら,私はとても困る。参考文献が集まらないと,論文が書けなくなる。卒業(修了)だって,きっとできない。そんな大げさな,という人もいるかもしれない。インターネットで,学術論文の要約ぐらいは簡単に見られるのだから,個人的に文献を収集するうまい方法もあるのだろう。しかし,私のように嘆く人は結構いるのではないだろうか。
 私は現在,菌類の分類について勉強しているが,この分野に関する文献の役割は大きい。たとえば,Aというグループの新種らしき菌をみつけたとする。その菌が新種であることを証明するためには,これまでに記録されてきたAグループの全種について調べ,自分の菌と比較しなければならない。つまり,文献(多くは学内に所蔵されていない)を集めることがまず必要になる。この点で私は,図書館の方に大変お世話になっている。
 文献が手許に届くと非常に嬉しい。研究分野によっては,10年前の論文ですらすでに古くさい内容になってしまうと聞くが,菌分類の分野では,そんなことはまずあり得ない。時代が変わっても菌の姿は変わらないのだから,100年前の論文であろうと,それは記載されている菌とともに生き生きとよみがえる。たとえ,新種だろうと期待していた自分の菌が,そのような論文にある菌と同種だったとしても,私はそれほど失望しない。100年も前に,たとえばノルウェーの片田舎で,こんな地味な生き物を見つけていた人がいたことに感動さえする。いつのまにか私もノルウェーにいて,新種発見の喜びを味わっている。
 できることなら,世界中を旅行して,珍菌を観て廻りたい。もちろん,そんなことをするお金も時間も私にはない。が,図書館の方が学外の文献を届けてくださるおかげで,インドにも,エクアドルにも,採集旅行に出かけられる今日この頃である。

(たなか・かずあき)


弘前大学附属図書館 Hirosaki University Library